満員電車の激走

 僕は毎日満員電車に乗り職場へ向かいます。電車には汗をかいたサラリーマンがたくさん詰め込まれていて、夏の蒸し暑さをより一層ひどいものにしていました。
それももう慣れたもので、いまでは目の前の髪の薄い頭も、独特な加齢臭も愛おしく思えます。
僕と同じように何かのために一生懸命頑張っているのだろうと思うと憎めないものです。

 その日は夏を象徴するようなとても暑い日で空は高く突き抜け、入道雲はくっきりとそこに張り付けられていました。
電車にはいつも通りの人々がいて無関心にそこに乗り込み、あっという間に白いシャツに囲まれました。
新聞を読む者もいればスマートフォンをいじるものもいて、僕はその中でじっと人々を見つめていました。
みんなは揃ってイライラした顔で同じ方向を見ていて、その先に目線をやると30代くらいの女性が座席でメイクをしていたのです。
僕は仲間たちのイライラに共感しながら女性をしばらく眺めていました。
少し乱れたスーツや、慌ててメイクをしている手つき、散らかった化粧品を入れているポーチ、クシャクシャな書類の入ったバッグなんかを見ていると少しおかしくなってきていまい、僕はむさくるしい車内で声を上げ笑ってしまったのです。
するとみんなの目線は僕のほうへ集まり、誰もが僕をにらみつけました。
そのあとでまた女性のほうへ向くとそこには切り抜かれたように空の座席があっただけで、女性の姿は見当たりませんでした。

 僕は職場の最寄りの駅で降りるとその女性が立っていて、僕にありがとうと言い、きれいに腰を折りました。